11【言霊ミ】 生杙の神(いくぐひのかみ)

11【言霊ミ】 生杙の神(いくぐひのかみ)

角杙の神の父韻キと陰陽、作用・反作用の関係にある父韻ミを指示する神名です。この生杙の神という神名ぐらい実際の父韻ミにピッタリの謎となる神名は他にはないでしょう。角杙の神の時、杙というものを昆虫の触覚に譬えました。人が生きるための触覚と譬えられる働き、とはどんな働きでありましょうか。変な例を引く事をお許し下さい。日本の種々の議会の議員さんが選挙で当選するのに必要な三つのもの、といえば地バン、看バン、カバンです。言い換えると、地バンとは選挙区の人々とのつながりのこと、看バンとは知名度、そしてカバンとは勿論豊富な選挙費用を持つことです。議員さんにとって選挙で当選したから一息、という訳にはいきません。当選したその日から、自らの三つのバンを更に大きく強く育てて行き、次の選挙への準備をすることです。地バンである選挙区の人々、今までに顔見知りになった人々へ、議員自身の影響力を更に売り込んで行かねばなりません。どんな人にどの様に自分を売り込んだら良いか、その働きの最重要なものが言霊ミであります。言霊父韻ミとは、自分の心の中にある幾多の人々と、如何なる関係を結んで関心を高めて行くか、相手の心と結び付こうとする原動韻即ち父韻ミが重要となります。どんな小さい縁も見逃してはなりません。縁をたよって自分の関心を売り込む力です。これは正(まさ)しく生きるための触覚であります。政治家にあってはこの生きるための触覚を手蔓(てづる)と言います。その他物蔓・金蔓・人蔓、手当たり次第に関係の網(あみ)を広げて行きます。

政治家ばかりではありません。この生杙という父韻ミは、人が社会の中で生き、活躍して行くためにはなくてはならぬ必要な働きであります。社会に於てではなく、人間の心の中との関係についてもこの触覚は重要な働きを示すでありましょう。自分の心の中の種々の体験とその時々のニュアンスに結び付き(生杙)、またそれを掻き取って来て(角杙)、小説を書き、印象画や抽象画を描き、また既知の物質の種々の法則の中から微妙な矛盾を発見して、新しい物質の法則に結びつけて行く才能の原動力もこの言霊キ・ミの働きに拠っています。

角杙(つのぐひ)の神。妹活杙(いくぐひ)の神。

言霊キ、ミ。昔、神話や宗教書では人間が生来授かっている天与の判断力の事を剣、杖とか、または柱、杙などの器物で表徴しました。角杙・活杙の杙も同様です。言霊キの韻は掻き繰る動作を示します。何を掻き繰る(かきくる)か、と言うと、自らの精神宇宙の中にあるもの(経験知、記憶等)を自分の手許に引寄せる力動韻のことです。これと作用・反作用の関係にある父韻ミは自らの精神宇宙内にあるものに結び附こうとする力動韻という事が出来ます。

人は何かを見た時、それが何であるかを確かめようとして過去に経験した同じように見える物に瞬間的に思いを馳せます。この動きの力動韻が父韻ミです。またその見たものが他人の行為であり、その行為を批判しようとする場合、自分が先に経験し、しかもそういう行為は為すべきではないと思った事が瞬間的に自分の心を占領して、相手を非難してしまう事が往々にして起ります。心に留めてあったものが自分の冷静な判断を飛び越して非難の言葉を口走ってしまう事もあります。これは無意識にその経験知を掻き繰って心の中心に入り込まれた例であります。

人は世の中で生きて行く時、この父韻キミの働きを最もしばしば経験します。そしてこの働きは最も容易に認識する事が出来るのではないでしょうか。