「言霊」島田正路氏の著書の写し 4

言霊原理による創造について

母音・半母音・父韻・親音・子音を心に自覚確認した創造行為とは、どんな効能を発揮することができるのでしょうか。物質構造を究極的に明らかにする物理学で譬えてみましょう。物質宇宙を分析していって、もうこれ以上分けたらその物質そのものでなくなってしまうというところまで進みますと、物質の最小要素としての元素に到達します。それ以上に分析が進みますと物質そのものを構成している先天構造である電子・原子核さらには陽子・中性子・・・等々、素粒子の世界に入ります。

そこでいま原子核内の素粒子の全ての構造、性質、エネルギー等々が明らかにされ、物質とはいかなるものであるかが解明されたとなるとどういうことになるでしょうか。この世に存在するすべての物質の合成、分解が可能となり、その物質間の化学反応は手にとるごとく予測されることになりましょう。手にとって見られる試験管の中の反応はもちろん、極微から全宇宙大にわたる物質現象はことごとく把握解明される可能性が開かれることになります。

言霊母音・半母音・父韻・親韻・子音という精神の先天・後天要素を把握・自覚することは、右に物質的な比喩として述べたように人間精神内の全ての現象に対してその構造・性能の解明、経過、予測等々を可能にしま します。

日常繰り広げられる目の前の生活から 産業・経済・教育・芸術・宗教・道徳・政治党と社会のあらゆる現象について、また世界の混乱する国際情勢の適格な把握・予測・方策に到るまで、掌の上にあるものを操るごとく処理することを可能にするでしょう。

言霊の原理は一切の霊的現象に対しても真相を明らかにし真偽の判断の基礎となりましょう。さらに社会のあらゆる主義・主張・論説等についても人間精神の根本の立場からその長所・欠点の指摘、アドバイスとその見通しを明示することが可能です。そして最終的に人類歴史の歩むべき方向・方策やその転換点の率直にして明確な実行可能の道を提示することも可能でありましょう。

三千年以前世界は言霊原理を中心に精神文化の華が咲いていました。これを人類の第一文明の時代と名付けることができます。次ぎにこの精神文化の精髄である言霊の原理を故意に隠歿する政策が執られました。物質文明を急速に発展させるためです。爾来三千年間、弱肉強食一色の世界となり、その中から物質文明は現在あるがごとく発達しました。これが人類の第二の文明時代であります。この物質文明の発達の末に人類は目も眩い物質的繁栄に恵まれると同時に、一歩誤れば人類絶滅の危機に直面せざるを得ない事態をも招来しました。この時第一の文明の根本原理であった言霊の原理が人間の潜在意識の奥の奥から不死鳥のごとく甦ってきたのです。人類はいまから、第一の精神文化と第二の物質文明を車の両輪としてそれを統合した第三の文明の創造時代に入ることになります。二十一世紀は人類の新紀元第一世紀でなければなりません。しかしながら第三文明時代に入るためには、どうしても現在の人類の危機を乗り越えねば成りません。そしてそれがための唯一の方法はやはり第一の文明の根拠である言霊原理の復活とその体得以外にはありません。

言霊母音・半母音・父韻・親韻・子音の自覚による言霊エの運用者の出現が切に望まれます。

それが各宗教が予言してきたキリストの復活、仏陀の下生の真の意義なのであります。私はいままで言霊とはどういうものか、またそれを理解し、その原理に則って行動するにはどのような勉強修養が必要なのか、いわば言霊の本論としてお話してきました。この本論の大筋を御理解頂いたこととして、これからは言霊の原理から見ると現在の世界・社会はどのように解釈されるのか、社会の混乱の解決はどの方向に求められるべきか等についてお話を進めていくことにいたします。いってみれば言霊原理の応用問題といえます。先に昆虫の成長進化のことをお話しました。幼虫から繭に、そして羽化して成虫となります。人間については羽化登仙という言葉があります。昆虫の幼虫・繭の時代はいってみれば人間の言霊ウ・オの次元段階です。羽化して初めて言霊アの宇宙へ自由に飛び出す段階に入ります。そして言霊エ・イの次元が登仙の言葉がぴったり当てはまる段階といえましょう。仙人とは実は隠遁者のことではなくて人間が人間を知っている人という意味です。昔仙人のことを山人といいました。山とは古代八間すなわち八つの間を意味しました。八父韻の意味です。人生を言霊で捉えることのできる人のことでした。事物を言霊ウ・オの次元で見るよりは、言霊ア・エ・イとさらに観点を上げてまたは観点を深めて見る方が、ずっと大局的にそして正確詳細に解釈することができましょう。

まず言霊の観点から現在の世界の危機はいかに解釈され、どんな解決方法が提示されるでしょうか。この命題こそ実は言霊を社会に紹介しようとするこの本の主たる目的であるのですが、それを正確にご理解頂くためには言霊に関するすべてが理解の下敷きとならねばならず、さらに多くの説明をつけ加える必要がありますので、ここではその根本解決に到る大筋のみを記すことにします。

人間は現在の状況にいかに対処すべきかを決定するためには、現況が過去よりどのような経緯でかくなったかを知らねばなりません。つまり人類が直面する危機を招来した世界歴史をあらためて調べることです。ところがここに問題があります。人間は事物を想定研究する場合、常に自分の経験・知識を拠り所とします。歴史の研究についても同様です。歴史の著者の知識が人間の持つ性能の全部をつくしていない場合、その人の書いた歴史書はまた偏頗なものとならざるを得ません。現代に流行する歴史書を読みますと、その論旨が人間の全性能である言霊ウ・オ・ア・エ・イ五段のうちのたかだか最初の言霊ウとオの二段階だけから全歴史事実を垣間見ているに過ぎないのです。そこには言霊アである魂の自由飛翔もなく、いわんや言霊エ・イである道徳の自由選択も言葉の根源原理も見当たりません。それゆえに過去の世界に関して、また日本民族に対して、歴史的に大変な見落としや誤りが生じました。



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