50【言霊ン】 火之夜芸速男の神(ほのやぎはやをのかみ)またの名は火の炫毘古(かがやびこ)の神といひ、またの名は火の迦具土(かくつち)の神といふ。

50【言霊ン】 火之夜芸速男の神(ほのやぎはやをのかみ)またの名は火の炫毘古(かがやびこ)の神といひ、またの名は火の迦具土(かくつち)の神といふ。

火の夜芸速男(ほのやぎはやお)の神とは言霊ン、神代文字のことであります。火の夜芸速男の神の火は言霊のこと。夜芸とは言霊が夜になって眠ってしまった芸術のことです。速男とは文字を見ると直ぐに言霊の心(男が霊、女が言)が分ります。またの名火の炫毘古(かがやびこ)の神とは、神代文字はすべて言霊原理に則って造られていますので、文字を見ると言霊の内容(霊)がその中で輝いて見えることをいいます。

またの名火の迦具土の神の火は言霊のこと。迦具土とは書く土の謎。昔、言霊一つ一つを粘土板に書き刻んで素焼きにし、文字板を作りました。甕といいます。その文字板を心の持ち方に従って並べ、心の典型を表わしました。甕神といいます。御鏡の原形であります。火の夜芸速男の神と呼ばれる神代文字は昔、多くの種類のものが造られました。その多くの種類の神代文字の区別は後章で解説されます。

以上で五十番目の最後の言霊ンの解説を終わり、人間の心を構成する五十個全部の言霊が出揃いました。古事記は今後どのような話の展開が待ち構えているのでしょうか。興味津々たるものがあります。先ず古事記の文章を先に進めることにしましょう。

次に火(ほ)の夜芸速男(やぎはやお)の神を生みたまひき。またの名は火(ほ)の炫毘古(かがやびこ)の神といひ、またの名は火(ほ)の迦具土(かぐつち)の神といふ。

言霊ン 火の夜芸速男の神の火(ほ)は言霊、夜芸(やぎ)とは夜の芸術の意、速男(はやお)とは速やかな働きという事。神とは実体という程の意です。これではまだその内容は明らかには分りません。そこで「またの名」を取り上げて見ましょう。火の炫毘古の神の火(ほ)は言霊、炫(かがや)毘古とは輝(かがや)いている働きの意。またの名火の迦具土の神の火(ほ)は言霊、迦具土(かぐつち)とは「書く土(つち)」の意です。昔は言霊一音一音を神代文字として粘土板に刻み、素焼きにしてclay tabletにしました。これを甕(みか)と呼びました。甕の神は御鏡(みかがみ)に通じます。

ここまで来ますと、火の夜芸速男の神とは昔の神代文字の事であることが分ります。文字は言葉が眠っている状態です。夜芸速男とは夜芸即ち読みの芸術である文字として言霊を速やかに示している働きの意であります。またの名、火の炫毘古とは文字を見ると其処に言霊が輝いているのが分ります。以上の事から五十番目の神、火の夜芸速男の神、言霊ンとは神代文字の事であると言う事が出来ます。太古の神代文字は言霊の原理に則って考案されたものでありました。言霊ンのンは「運ぶ」の意だそうであります。確かに文字は言葉を運びます。それを読めば言葉が蘇ってきます。

「天地の初発の時、高天原に成りませる神の名は天の御中主の神(言霊ウ)」より始まり、先天十七神、それに火の夜芸速男の神(言霊ン)までの後天三十三神を加え、合計五十神、五十音言霊が全部出揃いました。古来、日本の神社では御神前に上下二段の鏡餅を供える風習があります。その意味は言霊学が「神とは五十個の言霊とその整理・操作法五十、計百の原理(道)即ち百の道で百道(もち)(餅)」と教えてくれます。先天・後天の五十の言霊が出揃ったという事は鏡餅の上段が明らかになったという事です。そこで古事記の話はこれより鏡餅の下の段である五十音言霊の整理・操作法に移ることになります。人間の心と言葉についての究極の学問であります言霊学の教科書としての古事記の文章が此処で折返し点を迎えたことになります。

【註】火の夜芸速男の神という日本の神代文字は現代知られているだけでも数十種あるといわれています。その詳細については後章にて説明されます。