[運用 49] 月読(つくよみ)の命

月読(つくよみ)の命。

ここに左の御目を洗ひたまふ時に成りませる神の名は、天照らす大御神。次に右の御目を洗ひたまふ時に成りませる神の名は、月読(つくよみ)の命。次に御鼻を洗ひたまふ時に成りませる神の名は、建速須佐の男の命。

ここに古事記の文章では初めての選り分けの言葉、左の御目、右の御目、御鼻という言葉が出て来ました。どういう事か、と申しますと、阿波岐原の川の流れを上中下の三つに分けました。上はア段、下はイ段、そして中はオウエの三段としました。その中つ瀬のオウエを各々選り分ける為に底中上の三つの言葉を使いました。次にその底中上について重ねて現象を述べるに当り、底中上の区別を二回続けるのは芸がない、と思った為でありましょうか。太安万侶は全く別の表現を使ったと考えられます。それが顔の中の左の目、右の目、鼻の区別なのであります。顔とは伊耶那岐の命の音図、即ち天津菅麻(すがそ)音図の事です。菅麻音図は母音が上からアオウエイと並びます。この母音の列を倒して上にしますと、左より右にアオウエイと並び、その中の中央の三母音を顔に見立てますと、言霊エは左の目、言霊オは右の目、鼻は言霊ウとなります(図参照)。

次に右の御目を洗ひたまふ時に成りませる神の名は、月読(つくよみ)の命。

右の御目に相当する次元は言霊オの経験知です。禊祓の実行によって人間の経験知、それから発生する人類の諸種の精神文化(麻邇を除く)を摂取・統合して人類の知的財産とする働きの究極の規範が明らかに把握されました。月読の命の誕生です。その精神構造を言霊麻邇によって表わしますと、上筒の男の神に於て示された如く、オ・トコモホロノヨソ・ヲとなります。

次に月読の命に詔りたまはく、「汝が命は夜(よ)の食国(おすくに)を知らせ」と、言依さしたまひき。

次に伊耶那岐の命は月読の命に「貴方は夜の食国を治めなさい」と命令し、委任しました。夜の食国とは昼間の言葉である言霊に対して、その言霊の日の光がない国の言葉、それは哲学や宗教に見られる経験知より始まる概念とか、または表徴等の言葉の事でありましょう。精神内容を表現する言葉から言霊原理を差引いた言葉の領域、これを夜の食国といいます。この事は月読(つくよみ)の命という名前の由来ともなっています。月読の月(つく)とは附く、即ち附属するの意です。何に附属するか、と言いますと、言霊とその原理に附属して「読む」、即ち説明するの意です。そこに経験知に従って表出された概念や表徴の言葉が使われるようになります。それはまた言霊即ち日(ひ)(太陽)の光を反射して照る月の光で物を見るように、何事も薄ぼんやりとして実相が見えない領域を指しています。月読の命はこの領域を治めよと命令され、委任されたのでした。